第五講義 「顔のない月学」

TOP以外から飛んできた方へ…http://mikawa-b.hp.infoseek.co.jp/

前口上

諸行無常のエロゲ時間で考えれば、古い作品である、ROOTの初陣作である「顔のない月」。
これを、今更ストーリー考察・検証してしまおうというのが、これもまた今更ながら再開した詰め込み講義の趣旨です。
恐ろしく無意味なことをこれからしようとしているような気もしますが、
折角、システムが非フレンドリーなこのゲームを、(一回目のプレイでは)スキップなしに読破したので、
ストーリーをすっきりさせて、満足したいと思った次第です。
恐らく、ただでさえ難易度が高いこのゲームをクリアしたのに、ストーリーが今ひとつ釈然としないという方もいらっしゃることでしょう。
ただ、大多数の人はそれなりに自分の中で結論付けていらっしゃると思うので、
今回の講義は、とても対象が狭いものになりそうです。(このサイトがそもそもそうなんですけれど。

ともあれ、この文書で少しでも釈然としていただければ幸いです。
また、「ストーリーがわけわかんねぇよ!」とか、システム面以外でクソゲーの判断を下している方へも、聴講なさることをお勧め致します。
システムには我慢して、もう一度プレイしてあげてください。(きっとそれは、Trueシナリオの、最後の方の文を我慢できずにスキップされたからでしょうから
当然ながら、ネタバレ行為そのものを目的としているので、未プレイの方は絶対にご覧にならないで下さいまし。
(攻略サイトでもないから、そういう人は見ないでしょうけど。)
講義は、追々追加していく形で行います。
気長に御聴講下さいませ。

※余談ながら、DVD版ではシステム面はだいぶ改善されているようですね。

目次
・第一章「人物論」

・第二章「風土論」

・第三章「エンディング各論」


第一章 「人物論」

まずは、登場キャラクターごとに検証していこうと思います。
萌えという観点から言えば、「鈴菜たん一人を論じればいい」という結論に至ってしまいますが、
今回はストーリー解析が目的なので、己の萌は排して、検証してみようと思います。
だから、当然五平とかも論じます。ご了解を。

まずは、ビジュアル的に理解しやすいように、立ち絵で分けて、各人物について見てみることにしましょう。
恐らく、この辺りは大抵ご承知のこととは思いますが、念のための確認とさせていただきます。
ただ、まだ確たる結論を出せずにいる人物も多いので、後々ここの記述を修正する可能性もあります。

倉木 鈴菜 倉木善治郎と倉木由利子の間の娘で、倉木神社の巫女。恐らくこの部分に間違いはない。
双子のうち、穢れを受けやすい巫女。ゆえに、正統な巫女として擁立されている。
登場人物の中で、一番何も知らされていない存在である。
浩一の回想の中では、積み木を積んでいる少女。
当初の予定では、
鈴菜は偽りの月待ちの儀にて浩一の子を孕み、生まれてくる子こそが鬼の依代となるよう霊に考えられている。
劇中では直接出てくることはないが、恐らく儀式が終わり子を産んだ後で始末されてしまうと思われる。
倉木 由利子 倉木善治郎の妻であった人物。
依り代として殺されたはずの浩一が死なないので、代わりに生贄にされた哀れな人。
その恨みから、赤子の霊の依代となり、倉木の屋敷と久坂村に霧をめぐらして支配している。
生贄にされるのを救ってくれなかった夫の善治郎を狂わせた後に殺し、浩一を倉木の山に呼び出すきっかけを作り出した。
しかし、子供の頃の浩一には深い愛情を持っており、
浩一の鬼側の半身を静めると共に、その半身に深い憐憫の情を持っていると思われる。
元は巫女なのでその力は強く、それが赤子の霊の影響力となっている。
春川 知美 春川一平の孫…ということにはなっているが、実際には一平の孫ではない。
知美も浩一同様半身(欠けた者)の存在であり、知美ENDでは、浩一が、もう一方の、鬼の半身と結びつかないように、
自らが浩一と結びつくことで(本質的には)平穏に終わる。
元々倉木の山と一体の存在であったが、由利子が生贄にされた後、地上に上ってきて、知美となった。
知美と名づけて育てたのは春川一平である。
知美は中身(即ち、元々は山の穢れ)を持たない、人としての形だけをもった存在として現れた。
そして、現れたときから、知美は何かの器となるべき存在だと自覚していた。
一平の説では、「春川の罪(明治初めの放火事件)を償うために神が与えた存在」だという。
この説によれば、知美は鬼の復活を阻止する為の存在であり、元々浩一の鬼と結びつく為の存在であったことになる。
眼鏡を外した知美は、浩一を我が物にしたい欲求を持った、自律的な器としての存在である。
即ち、眼鏡を外した時点より、知美の自我が表に現れ始めたことになる。
栗原 沙也加
漆原
この二人は、話の本流とは関係ないので、除外。
とりあえず、沙也加は操られて性の亡者と化した倉木善治郎の趣味で連れてこられただけでしょう。
穢れ側の意思としては、生贄の一つとして用意してある存在。
沢口 千賀子 倉木家の最も古い分家である、沢口家の人間。
倉木家の『月待ちの儀』が誤った方法で行われようとしているのを、阻止しに訪れた巫女。
倉木家に潜りこむために浩一へ接近し、本山ゼミの聴講生となっている。
恐らく登場人物の中では最強。
倉木家に訪れた段階では、穢れ側の目論見を悟ってなかったであろうが、
それを見破ってからは、鬼の復活阻止を大目的にしている。
倉木 水菜 鈴菜の双子の姉で、穢れを受けにくい巫女。
巫女の家にとって双子は凶兆なので、世間からは隠匿して育てられた。
子供の頃に、浩一が連れ出した先で穢れを浴びたと倉木チヨらが判断し、
穢れから守るためにより一層隠されて育てられるようになったのだと推定される。
言葉を喋れないのがこの時の影響かどうかは不明。
穢れを受けにくい存在なので、山の穢れの意思も支配することができない。
また、同時に神に近い存在として、神の意思を伝達する存在でもある。
浩一の回想の中で登場する少女。
倉木 チヨ 倉木由利子の祖母であり、倉木家の当主。
百年前の倉木家焼き討ちの際に、未来から呼ばれた浩一によって助けられ、唯一生き残った人物である。
巫女としての力を山の穢れによって奪われ、呪詛で呪い殺されかけているが、
浩一が握らせた石により、生き長らえ、離れを穢れから守る力を維持している。
当初は浩一を穢れと結びついた由利子が鬼の復活の為に呼び寄せた男と見ていたが、
浩一とのシンクロ現象を経験すると、真の月待ちの儀を行うよう、浩一に託す。
羽山 浩一 倉木家の分家の一つである羽山家の養子。元々は倉木に縁ある孤児であったようだ。
養父母が事故死した後、倉木本家当主からの遺言で倉木本家を訪れたとされる。
だが、善次郎が実際に遺言を残していたとは考えがたく、由利子の命令で五平らが策動したものであろう。
恐らく養父母も、浩一を連れ出す妨げとなると考えた穢れの意思によって殺害されたと思われる。
赤子の霊によれば、幼い頃、浩一は供達候補として倉木家に連れて来られた。
その際、水菜を外に連れ出してしまった浩一は、鬼ヶ原で遊んでいるところを男に襲われる。
男は恐らく、赤子の霊の意思により操られ、鬼の復活の妨げとなるであろう水菜を
殺害しにかかったと思われるが、浩一は身を挺して水菜を守ろうとする。
このとき、男の凶刃で浩一は死亡するが、水菜を守ろうとする意思が鬼の半身を取り込み、
その力で水菜を守ることには成功する。
当時の倉木チヨを初めとする館の人々は、その血に塗れた浩一の姿から、
神の代弁者たる水菜が男を殺害し、その血を浩一が浴びたのだと考えていた。
その血が水菜に穢れを引き寄せるのを恐れた倉木の人々は、浩一を穢れの依代として沈めるため、
殺して石室へと落とした。
しかし、数日すると、殺したはずの浩一が地上へ戻ってきてしまっている。
その後、何度殺しても死ななかった浩一を見て、屋敷の人々は浩一を降りてきた穢れそのものと判断し、
代わりの依代として由利子を捧げ、浩一を山から遠ざけることに決めた。
しかし、実際に石室から浩一を救い出していたのは水菜であった。
鬼は浩一と同一化しようとするが、水菜がそれを許していなかったのである。
そして、倉木家への復讐を目論む赤子の霊と由利子は、
月待ちの儀を控えた現在になって、鬼を復活させようと浩一を再び倉木の山へと呼び寄せるのである。
では、石室の浩一と実際に生きている浩一はどのような関係なのか?
だいぶ推論が入るが、恐らく、浩一は鬼ヶ原で死亡した際、魂魄が分かれている。
東の言葉を借りれば、「死して人の身に残り、人のそれとなる」魄が浩一の人格を残し、
魂の部分に鬼の半身が入り込んだと言える。
この鬼の半身が浩一の身体に残っているため、それを見たチヨが不吉なものと認識した……のだろう。
では魂はどこへいったのかと考えると、石室へと祓われ、沈められたと判断すべきだろう。
では、石室に残っているのは、ただの浩一の魂なのだろうか?
生きている浩一が魄のみの存在である可能性は、
滝で水菜と交わった際に消滅してしまうことから推定することもできる。
ただ、この点は明言されていないので真偽の判断が難しいところである。
勿論、浩一を石室につなぎとめようとする鬼の力が存在することは間違いない。

しかし、知美ENDでは知美と同一化している。
知美が魂としての存在なのか魄としての存在なのか、この判断も熟慮の余地がある。
東  衣緒 倉木家の分家の一つである、東家の分家筋の人間。よって、一応神官の力を持っている。
当人は生贄の一人として用意されているだけではあろうが、
東家は真の月待ちの儀を受け継ぎ、記録を守っている家であり、重要である。
また、衣緒は鈴菜の供達という役割も持っている。
春川 一平 倉木家の分家、春川家の人間。
主治医として倉木家に仕えているが、倉木チヨに仕える者として、穢れに対抗しようとしている。
しかし、穢れの支配には抗しきれていない。
ストーリーの各所で「浩一を高く買っている」という発言があるのは、
(殺されても死ななかった)浩一が穢れに抗することができる存在と期待してのことと思われる。
もしくはただ、前当主の倉木善治郎よりは抗することができる存在だと見てのことかもしれない。
しかし、一平の第一目的はあくまで鬼の復活阻止である。
であるから、欲望の赴くままに行動した場合、毒殺END(やっぱり死なないけど)となるわけである。
春川 五平 春川一平の双子の弟、ではあるようだ。だが、春川の一族とはとても思えないほど粗野な男である。
本人の発言でもあるので、由利子に武芸の腕を見込まれて雇われているのは正確であると思われる。
山の穢れに支配されてはいるが、屋敷の人間の中ではかなり自律的に行動している人物である。
行動は山の穢れの命に従っているが、当人は「倉木の埋蔵金」を手に入れるために従っているようだ。
そう考えると、やはりかなり出来る男。
本山教授 倉木家の儀式の秘密を知るために、浩一を利用してやってきた人物。
序盤から浩一を利用して倉木家に入り込んでいるのはわかるが、
実際には五平に浩一と沢口を売り渡す約束までこぎつけている、相当食えない人物。
とはいえ、純粋な研究意欲だけで来ているだけの存在である。
水干の巫女 元は、百年前に月待ちの儀を執り行い、倉木神社を焼き払った双子の巫女。倉木チヨの母に当たる。
だが、その双子のうち、穢れを受けやすい巫女は赤子の段階で間引きされ、それが山の穢れの中心となっている。
その根本には、殺しそのものが穢れであることに気づかなかった、当時の倉木の人間の失敗がある。
序盤に出てくる水干の女は、この赤子の霊である。
基本的には、オーラをまとっているのが赤子の霊。また、浩一の夢に出る少女もこれである。
こちらは、百年前に春川の人間を使って鬼の復活を試みたが、巫女によって阻止され、
百年後に由利子の恨みと結びつき、倉木の家と村に対する復讐をするために再び鬼の復活を目論んでいる。
百年前、水干の巫女から真の月待ちの儀を伝授された、当時の東家当主と推定される。
恐らくその時点で、巫女は倉木神社の焼き討ちを考えており、真の月待ちの儀を残すために、
東家を選んだものと思われる。

色々と再検証・訂正すべき場所が多数ありそうです。
なお、「五平たんはこんなキャラじゃない!」とか「ここの記述は明らかに矛盾しています!」というような異論がある方は、
評定なりメールなりで、なんなりとご指摘下さい。


第二章 「風土論」

この章では、物語中で出てくる様々な単語や概念について熟考してみようかと思います。
この単語は加えるべきだ、などの要望があればどうぞ。

双子の巫女の凶兆 倉木家に限らず、巫女の家系にとって双子は凶兆とされる。
なぜならば、双子は「陰と陽」「魂と魄」を分けた両極として生まれてきた存在だからである。
故に、一方は限りなく魂を持たずに生まれてきた子となり、一方は魄を持たずに生まれてくる。
これが何故凶兆となるかと言えば、「穢れ」という一つの魂は、魄しか持たない人間には
普通の人間に比して、極めて憑依しやすいことが原因である。
これに対し、限りなく魂のみである巫女は、神に近い存在となる。
そしてこの存在は、神の代弁者でもある。従って、双子が生まれるということは、
神が何らかのことを巫女に代弁させる必要があるため導かれた、とも言える。
本山教授によれば、
通例、巫女の家系に双子が生まれた際、片方を隠すとされているようである。
この際、穢れを引きやすい巫女を正統な巫女とし、守ってやることにするものだという。
魂と魄 人間は、魂魄と呼ばれるもの、双方をもって生まれてくる。これを併せて魂(たましい)と呼ぶ。
簡単に言うと、魂(たましい)のうち、
魂(こん)は精神的な部分に宿るものであり、魄は肉体に宿るものである。

水干の巫女と東が浩一の夢で語った言葉
「魂魄、魂と魄、魂は肝のそれ、魄は死のそれ。魄は死のもの。死して人の身に残り、人のそれとなる。」
倉木の大火 明治期に起こった、倉木家の大火事。世間では、倉木家の金を狙った内紛によって起きたものとされている。
実際には、赤子の霊が春川家の人間を使って鬼を復活させようとしたのを、当時の巫女が神社に放火し、
倉木家の人々を抹殺して阻止しようとした事件。
巫女は後世より浩一を呼び出して自分の娘(チヨ)を蔵に避難させ、自らは神社で果てた。
この放火に先立ち、巫女は当時の東家の当主に真の月待ちの儀を伝えている。
過去の世界で、当時の倉木家の人々を殺害する男の姿があるが、これは恐らく沢口家の人間であろう。
この事件の後、倉木神社には政府の指導が入り、儀式は形骸化していくことになる。
倉木の埋蔵金 倉木の埋蔵金伝説は、テレビ局の取材が来たこともあることから
作中の一般世間でもかなりポピュラーなもののようである。
だが、それはただの噂話にとどまるようなものではない。
五平の話によれば、現実に倉木善治郎が倉木の金を五平に見せたという。
つまり、倉木家の当主は、何らかの形で金を回収していたことになる。
だが、倉木の金は五平が散々探して見つけられなかったように、普通の人間には到達できない場所にある。
即ち、魂と魄の通り道である、庭の池である。
善治郎が「生贄を捧げれば金を得ることができる」と五平に語ったということから判断して、
死んだ人間の魂が魂と魄に分かれるとき、金を生み出すものと推測される。
しかし、「魂の道」は当然普通の人間には到達できぬことから、巫女にしか回収は不可能。
では、由利子亡き後、善治郎はどうやって金を回収していたのだろうか?
可能性があるのは、鈴菜か水菜に回収させることだが、あまり現実味がない話である。
もっとも、五平は「善治郎がまだ正気だった頃の話」と言っているので、
五平に見せたのは由利子存命中のことで、由利子死亡後は金を回収していなかった、という可能性も高い。
椿の木と池 倉木家の庭に立つ怪しげな椿と池は、いつから存在するものか判じ難いものである。
池は、現世と倉木の山とを繋ぐ門のような存在であり、魂と魄の通り道でもある。
それは同時に、倉木の金が沈殿する場所でもある。
椿は山の穢れの力が最も発現する部分であるが、それは椿の根元に、
百年前に殺された双子の巫女の片方の遺骨が埋められているからである。
供達 倉木家の中心となる存在は当主ではなく、巫女である。
その巫女に生涯仕える男性を供達と呼ぶ。
恐らく、伝統的に、巫女の幼少期に引き合わされ、その相性を見定められて
選ばれていくものと推察される。
真の月待ちの儀 倉木の山には、元々神が存在していた。
最初の月待ちの儀は、倉木の山の人間が神の永遠性に近づくために行われたものである。
それは、魂の道を開き、そこを通過した人の魄を、神の胎盤たる倉木の山にて凍結させ、
魂魄の時間を止めたまま、魂に自由を与えるという狙いによるものであった。
しかし、現実には、そうはならなかった。
魄は確かに胎盤にてその時を止めたが、魂は神と同一化し、神の代弁者となる者を生み出すこととなったのである。

月待ちの儀の記述
「我、月待ちの儀の時、それ神に捧げる。さればそれ、神とし神のそれとなる。
 されば魂は空となり、夢みる。夢とは神と遊ぶなり。すなわち千代の夢となる。それ千代を籠めたる……」
月待ちの儀の形骸化 最初の月待ちの儀以降、久坂村の人々は倉木の神との接触を持った。
倉木の神は土地の守り神として、村に豊穣をもたらし、それに対して村人も感謝するという形をもって、
人と神の交信は行われていたのである。
月待ちの儀は、その神への感謝するために、供物を捧げる儀式として続いていったが、
次第にその真の目的は忘れ去られ、神の意思にそぐわない形へと、儀式は変貌していった。
即ち、「神へ供物を捧げる儀式」から、「山の穢れを祓う儀式」への変貌である。
それを決定的にしたのは、倉木の大火前後の事件であった。
赤子の霊によって、倉木の人々は鬼の復活の儀式を行うよう仕向けられ、それを阻止するために、
神は苦肉の策として一族を壊滅させた。
だが、それにより、倉木の山の神事には時の政府の手が入ってしまう。
時の政府は、赤子の霊を封じることで災厄を防ぐことには成功したが、
倉木の神を一般人が理解し受け入れるようなレベルでしか認めず、儀式はさらに形骸化する。
悪いことに、その誤った手順を踏む儀式は、神の胎盤に穢れを落とし、
長年の誤った儀式で蓄積された、怨霊たちに力を与える結果となってしまっていたのである。
偽の月待ちの儀 今回、赤子の霊が策動して行おうとしている月待ちの儀は、
真の月待ちの儀とは逆のことを行おうとしているものだという。
即ち、神の胎盤に穢れとして祓われた魂を、「魂の道」を通じて地上へと戻すのがその目的である。
それを鈴菜の子宮に宿った子供と同一化させ、鬼を復活させるというものである。

第三章 「エンディング各論」

この章では、具体的なエンディングの概要を記していこうと思います。
一応、かいつまんで書いているつもりなのですが、それでも冗長的なような気もしますね。

鈴菜・結婚END
(ウェディングドレス)
 鈴菜との屋敷での生活が続くにつれ、浩一は既に鈴菜と離れた生活というものが考えられなくなっていた。しかし、月待ちの儀が終われば、浩一は東京に帰ることになる。屋敷に残るという選択肢も、浩一には想像がしがたいものであった。
 その裏で、赤子の霊は苛立つ。鈴菜と浩一に肉体関係を持たせることまでは成功しながら、穢れの力は一向に二人へ及ぶ様子がない。それは、由利子に残された、母親としての心のせいであった。娘の鈴菜にとって、自分がやろうとしていることが幸せなのか、由利子にはとてもそうは思えなかった。赤子の霊は由利子に意思が届かなくなったことが理解できず、うろたえる。そんな赤子の霊の疑問に、知美の半身は答える。「それは貴方が人ではないから」だと。
 浩一は、鈴菜といちゃつく毎日を送りながら、このままではいけないと思い始めていた。問題を解決しなければならない、そう考えた浩一は、由利子に直談判することを決める。鈴菜への愛情についてばかりを考えている浩一に知美は言った、浩一が進んでいる道は間違っていない、今を生きている人間にとっては、と。今を生きている人間にとってはよいことである、しかしそれは全てにとってよいことではない。だが、浩一にとってその意味を理解できるはずもなかった。
 復讐を捨てた由利子の魔力は既に弱まり、屋敷の人間の記憶からも消えかけていた。しかし、由利子は浩一に自分の思いを伝えるため、姿を現す。由利子は浩一に告げる、自分が本当はいない人間であること、倉木の家のしきたりも何もかも気にせず、娘の鈴菜のことを幸せにして欲しいということを。そして、その遺言とともに、由利子の魔法は消え去り、倉木の山は本来あるべき姿に戻った。しかし、浩一だけは、仮初の存在として現れ、娘のために何かを諦めた由利子の言葉を忘れるわけにはいかない。鈴菜は、由利子の言葉を胸に刻もうとする浩一に、その日が由利子の命日であることを告げるのであった。
 一年後、結局浩一は屋敷での生活を続けていた。鈴菜との結婚式も済ませ、正式な当主の座を継いだ浩一は、ウェディングドレスを纏った鈴菜を山の外の世界へと連れ出す。由利子が何を望んでいたのか、浩一にはまるでわからなかったが、鈴菜のことを浩一に託したその遺言だけは守っていくことを誓うのであった。
鈴菜・鬼覚醒END
(真なる鬼)
 鈴菜を倉木の家から解放したいと浩一は思い、鈴菜もそんな浩一の許嫁であることを受け入れ、浩一に惹かれていった。だが、既に山の穢れは浩一の身体へ順調に入り込み、支配を始めていた。
 やがて、石室に閉じ込められている鬼の半身が活動を始めると同時に、浩一の欲望も活発になっていく。
 突然凶暴になった浩一に鈴菜は不信感を抱くが、浩一は鈴菜を愛する気持ちを失っておらず、鈴菜もまた浩一を愛していた。しかし、月待ちの儀が近づくにつれ、山の穢れの影響は益々強くなり、鈴菜は段々と前後不覚の状態に陥っていく。
 それでも鈴菜に儀式を行わせようとする倉木家の人々に、浩一は反感を抱き始めた。月待ちの儀の前日、鈴菜の御勤めに同行した浩一は、村人に蹂躙される衣緒と鈴菜の姿を目の当たりにする。浩一が当主として相応しくなったかを確認しようとしていた五平は浩一に大人しくしているように命じるが、浩一は鈴菜が蹂躙されているのを見過ごすことはできず、鈴菜を解放しようと、儀式に乱入した。だが、当主の資格なしと判断した五平の手によって浩一は倒され、地下牢へと送られる。
 地下牢で生殺しにされ、自我が崩壊していく中でも、浩一は鈴菜のことを案じていた。やがて、偽りの月待ちの儀が始まり、生贄たちが捧げられていく。浩一も生贄として石室に落とされ、山の穢れの思惑通り、石室に封印されていた鬼の半身に取り込まれようとしていた。
 だが、浩一は鈴菜への想いを失っていなかった。浩一は鈴菜への想いを保ち、鬼の半身に取り込まれるのではなく、鬼の半身を逆に取り込んだのである。
 鬼として新たに復活した浩一は、祭壇にいた人々を生贄として喰らった。そして、祭壇で自我を殆ど失っていた鈴菜と共に、倉木の山の支配者として君臨する。鬼を復活させたのは、倉木の山の穢れの意思であり、それを行ったのは村人たちであった。山の穢れは不完全ながら復讐を達成したことになり、村人は毎日浩一へ生贄を捧げることになった。しかし、浩一は鈴菜との生活があれば満足であり、それ以上のことは望んでいなかった。それを察した監視役の沢口家も、手を出さずに監視を続けることを決め、倉木の山は恐怖の支配の下で安定した日々が続くのである。
知美END
(欠けたる者)
 浩一が知美の色香に捕らわれていくうちに、知美も浩一に対して愛情を抱き始めていた。だが、月待ちの儀が近づく頃、沢口が五平に囚われ、沙也加や衣緒たちは毎夜地下牢に送られるようになっていた。先代の頃からずっと嬲り者にされていた知美は、由利子の命で、地下牢に送る必要はないとされていたが、偶然地下牢で沙也加たちが嬲り者にされているのを知ってしまうと、五平はその知美の身体も味わおうとした。浩一はそれを阻止しようとしたが、五平に到底勝てるものではないと知っている知美は、自ら進んで地下牢に行くことで、浩一を守ろうとした。
 やがて、山の穢れの影響が強くなり、チヨの命が残り僅かなのを感じた一平は、浩一を毒殺して鬼の復活を阻止しようとするが、逆に策を見抜いた穢れの意志によって殺害される。間もなく、チヨも山の穢れの呪詛によって力尽きる。
 ここまでは、山の穢れの思惑通りに事は進んでいるかに見えたが、一平とチヨの死により、知美は春川知美としての存在から、かつての器としての存在へと戻っていた。そして知美は、欠けた自分の身体を、浩一が補ってくれることに気づいていた。だから、山の穢れが浩一を自分から奪って鬼の半身と一体化させようとしていることは、知美には見過ごすことができなかった。
 一方、浩一は地下牢で行われている行為と、その裏にある山の穢れ、夢に出てくる少女に怯えていた。それはまた、自分の鬼としての半身に対する怯えもあっただろう。そんな浩一に、知美は「自分が守る」と宣言する。
 その翌朝、知美は沢口を牢から解放する。浩一と鬼とを一体化させようとする屋敷の人間を皆殺しにするために。沢口は鬼の復活を阻止するために、浩一も殺そうとする。しかし、既に山の力を得ていた知美は、それを許さなかった。知美の目的は、いうまでもなく、浩一を自分の物とすることだったからである。
 そして、力を得た知美と浩一は魂を一体化させる。既に人ではない存在と言える二人は、倉木の山の力を使い、永遠に山を支配していくことになる。
知美・衣緒END
(屋敷からの脱出)
 ふとしたことより、知美との夜の生活に衣緒が加わるようになり、衣緒に男色の気を感じるようになっていた頃、屋敷の中に異様な空気が漂うようになっていた。
 その矢先、浩一は五平に夕刻の儀式、そして地下牢へと連れて行かれる。そこで囚われていた沢口を目にした浩一は、沢口に明日助けに来ると告げるが、五平はその心中を見透かしていた。浩一は抵抗を図るも、五平の前には歯が立たず、地下牢に閉じ込められることとなった。
 地下牢に入れられた浩一の世話を任されたのも、知美であった。知美は浩一に対して「今までも今も、旦那様は私なしでは生きていけない。けれど、今の関係は私が望んでいるものじゃない」と告げ、浩一を解き放とうとした。知美が望んでいたものは、自らを浩一に依存し、浩一もまた知美に依存するものではあるが、同時に浩一を自分の物として、満たされた生活を送ることでもあったからである。しかし、その光景を見ていた五平はそれを許さず、その機に乗じて知美の身体も頂こうと図った。だが、そこに偶然一平が現れる。五平の振る舞いに激昂した一平は五平に詰め寄り、その隙に知美は浩一を解き放つ。慌てた五平は一平を刺殺してしまう。育ての祖父を目の前で殺された知美は気絶し、五平はそのまま浩一と知美を殺害しようと試みる。しかし、知美は既に沢口を解放していた。沢口は背後から五平を殺害し、続いて倉木の鬼と繋がっている浩一をも殺害しようとした。だが、山の力を得ていた知美(水菜という可能性もあるが…)により、それは妨害される。
 浩一に毎夜快楽を与えられていた衣緒は、地下牢に送られることなく、まだ日常を送っていた。だが、そこに気絶した知美を連れた浩一が現れ、事態は急変する。三人は警察に助けを求めることにし、浩一は鈴菜を助けに行くが、既に鈴菜の姿はそこになかった。その時、椿の木の所に由利子の姿を見つけた浩一は、由利子に逃げるよう伝えるため、椿の木へ向かった。
 由利子、即ち山の穢れは、思い通りにことが運んでいないことに焦れていた。水干の巫女の霊により鈴菜は隠され、浩一は知美によって浩一の部分が強くなり鬼の半身から遠ざかり、挙句沢口によって儀式が破壊されようとしていたのだから無理もない。そこに浩一が現れた。由利子は浩一を池に落とし、浩一の浩一としての部分を引き剥がそうとしたが、東家の一族である衣緒によってそれは妨害される。
 由利子の真の姿を目の当たりにし、危険な状況であることを悟った三人は、鈴菜を置いて倉木の山から脱出することを決意する。しかし、沢口はあくまでも浩一を殺すつもりだった。屋敷を出ようとする三人の前に立ちはだかった沢口に、知美は提案する。浩一を殺すという選択肢とは別の、もう一つの選択肢、知美と浩一が一体化し、鬼の半身と結びつかないようにする選択肢である。知美が全てを理解して言っていることを悟った沢口は、浩一を知美に任せ、自らは最後の後始末へと向かった。
 山の穢れはまだ諦めていなかった。倉木の山を囲む濃い霧によって浩一の脱出を阻み、あくまでも鬼の半身との一体化を目指していた。霧に阻まれた三人を救ったのは、水干の巫女だった。鈴菜と水菜を保護している氷塊の前で巫女は三人に告げた。「問題は何も解決していない。12年後に、もう一度二人を救い出す機会がある」と。誤った月待ちの儀を正す、それが二人を救う方法であった。12年後に、真の月待ちの儀を執り行って二人を救うことを決意し、無事山を脱出した三人はそれぞれの行き先に別れる。
 浩一は大学三年次生になり、元の東京での生活に戻っていた。そこに、東家に帰っていたはずの衣緒が現れる。そして同じく知美も。真の月待ちの儀を行うという、密かな決意を秘めた三人の共同生活が、東京で再び始まるのである。
沙也加END
(女優・山都瑠璃)
※後日記載
TrueEND
(動き出す時間)
 鈴菜と結ばれた後も、浩一は倉木の山における沢口の行動が気にかかっていた。沢口の後を追う形で倉木神社の裏を探るうち、浩一は思い出の中の少女である水菜と出会う。言葉も喋れず、世間から隠された環境を強制されている水菜の存在に気づいたことをきっかけに、浩一は倉木神社の儀式や歴史に奇妙な点を見つけ始める。そして、浩一の夢の中には、水干の巫女の姿が現れるようになった。巫女は言う、「過ちは正さなければならない」と。初めは何を伝えようとしているのか分からなかった浩一も、本山教授や衣緒との話などから、かつての巫女が月待ちの儀の過ちを正すことを示していることに気づいていく。
 その一方、思い出の少女である水菜のことを、浩一は個人的に気にかけていた。水菜が置かれている現状は、誰とも接することがなく、隔絶された世界である。鈴菜が倉木の巫女として課せられた足枷とは異なる、より直接的な形で、水菜は枷を嵌められているのだ。浩一は鈴菜をその閉鎖的な世界から連れ出す約束をした。水菜は自分の世界を受け入れているが、果たしてそれでいいのだろうか?
 しかし、浩一にその結論を与える間もなく、赤子の霊たちも予想していなかった事態が起こる。水菜と密かに会い、その身体を抱きとめている最中の浩一の姿を、鈴菜は目撃してしまう。水菜の姿を見た鈴菜は、幼少期にぬいぐるみのことだと刷り込まれた双子の姉の存在を鮮明に思い出す。そしてそれは、嘘を吐いていた親への不信となり、浩一の鈴菜に対する好意への不信となる。その不信は連鎖的に拡大し、鈴菜は幼少の頃から自分が穢れた存在として扱われていた、と認識し始める。その「穢れとして祓われた」共通認識が赤子の霊と結びつき、鈴菜を怨霊たちにとっての器として完成させてしまう。
 これまで由利子の思念を依代としていた赤子の霊は、鈴菜という現実の肉体を持った器を得たことで、鬼の復活への動きを早める。屋敷の人間に対する洗脳が強まる中、倉木チヨは浩一を離れへ呼び出す。チヨの狙いは、鬼の復活が早まったことを受け、鬼の依り代となる浩一を先んじて殺しておくことであった。狙い通りに毒を喰らい、もがき苦しむ浩一であったが、その時、チヨと浩一の間に、奇妙な意識の同調が発生する。その時、浩一の意識は、百年前の倉木の大火に包まれた倉木神社にあった。浩一はそこで、当時の巫女、即ち倉木チヨの母から赤子のチヨを託される。浩一の使命は、倉木チヨを大火から救い、土蔵まで避難させること、そして、その後の災厄からチヨを守るため、水菜から渡された御影石の欠片で出来たお守りをチヨに渡すこと。それこそが、百年前の巫女、倉木の神が見出した、正しき倉木山の信仰を残す手段であった。
 浩一との意識の同調を感じたチヨは、浩一に鬼の依り代とは異なるもう一つの意義を見出し、月待ちの儀を託す。そして浩一は、倉木の神の導きを受けながら真の月待ちの儀の準備を整えていく。だが、穢れの意思は、その浩一の行動すらも利用する。罠に嵌った浩一と衣緒は倉木の金を探る五平の手にかかり、地下牢へと送られてしまう。だが、浩一は倉木の神より力を託されていた。人の意識を崩壊させる呪いも、その力の前には通用するものではなかった。
 倉木神社の地下に到達した浩一は、神官家の関係者である、沢口、知美、衣緒と共に、真の月待ちの儀を執り行う。真の月待ちの儀とは、元来「魂の道」を開く儀式。それは神の胎盤たる倉木の山に穢れとして祓われた霊たちを救済する道となるはずである。もっとも、浩一は気づいていた。月待ちの儀には、神官家の者たちだけでなく、陰陽の両極となる者が必要であることを。そしてそれがこの場に揃って居ない以上は、儀式は不完全なものとならざるを得ないことも。そこに、赤子の霊と一体化した鈴菜が現れる。赤子の霊は身体を得るという狙いを達成し、もう一つの目標、鬼の復活をも浩一を殺害して石室に落とすことで達成しようとしていた。鈴菜の手で浩一を刺殺させようとする赤子の霊、しかし浩一は鈴菜に謝罪し、刃を向ける鈴菜の怒りを受け入れる。己の命をも差し出した浩一の真摯な思いを前に、赤子の霊と鈴菜の身体は同調を失っていく……。
 鈴菜を解放したものの、肉体的な死を遂げた浩一は、儀式によって開かれた「魂の道」に居た。そこでは、幼い頃に依代として落とされたままの姿で浩一は在った。浩一の前で、倉木の神を体現する水干の巫女、そして水菜の手によって、赤子の霊、由利子ら、穢れとして祓われたものは神の元へと昇華されていく。倉木の山の呪いは、こうして遂に消滅したのであった。一方浩一は、自分も死んだ者として、魂の道を通って消えゆくつもりであった。だが、浩一の魂は死んでいないことを巫女の口から告げられる。浩一は、鈴菜、水菜と肉体を再生する儀式を行い、現世へと帰っていった。
 現世にて、浩一は約束どおり鈴菜を久坂村の外へと連れ出す。勿論、水菜と共に。倉木の本殿は、二度と儀式を行えぬよう沢口の手で抹消された。月待ちの儀とは元々、神の永遠性を求めた人間の欲望が魂の道を開くために行わせたもの、人間の欲望がある限り、いずれは同じことが再び繰り返されるだろう。浩一は、そう判断したのである。鈴菜は美大への受験勉強に名を借りた、浩一との同棲生活を心待ちにしている。しかし、それは水菜も含んだ3人の共同生活である。これから来るであろう生活に一抹の不安を残しながらも、これからの3人の生活が、浩一が望んだ幸せな形になるよう、浩一は決意するのである。
由利子END ※後日記載
千賀子END ※後日記載

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